Jazz Bass | Fender
ベースのフレットを抜いてフレットレスにする修理はよくあるのだが、このケースは少し違っている。普通はフレットを抜いたあとの溝に木や樹脂等を埋め込んでフレットレスにするのだが、この場合はオーナーがウッドベースプレイヤーだったので、無地のままのエボニー指板が希望だった。しかも指板のアールはアップライトベースのものに近くして、その長さも 24フレットまで延ばしてほしいとの要望である。
ネックの真ん中にトラスロッドが入っているため、分厚いエボニーをネックに着けてから指板面を曲面に仕上げるという方法はとれない。そこで、見た目だけでも曲面のエボニーがメイプルのネックの上に乗っているようにしようということになった。指板についているバインディングの溝をうまく利用するのである。
普通のジャズベースは 20フレットまでなので、残りの 4フレット分のエボニーをネックに継ぎたさなければならない。
バインディングを取りはずしたあとトラスロッドの両側にこのようにエボニーを埋め込んでおく。これをネックのレベルまで削り、その上に一枚のエボニーを接着する。つぎに、もともとバインディングの付いていた溝に、薄いエボニーを指板の長さに合わせて接着する。
そのあと指板の上面を削ってアールを出し、最後にネックからはみ出た21フレットから 24フレット間での指板の下面を丸く削ると、まるでウッドベースの指板がネックについたように見えるというわけだ。
指板の延長部分をネックの裏側からみるともう少し良くわかるかも知れないが、一見したところ、ただ一枚の曲がったエボニーに見えるが、実は、指板の上側のエボニーと、トラスロッドの両側のエボニー、そしてバインディングの薄いエボニー、の合計五つの部品からできているのである。そしてトラスロッドの調整もできるというわけだ。
ネックをナットの方からみると延長部分のエボニーを除く三つのエボニーがよくわかると思う。上側のエボニーとネックの接着面は写真からもわかるように平面である。
指板の曲面に合うように改造して2弦と3弦のサドルも高くなっている。指板の側面には12フレット目と24フレット目に白いドットを入れた。
できあがりの写真を観てもそれほど感動はないかも知れない。
だが修理そのものはとても面白く、持ち主にもとても喜んでもらえた。
今でも印象に残っている楽しい修理のひとつである。