Electric Guitar | Rickenbacker
修理不可能なネック割れを新しいヘッドを作って直したケースだ。
このギターが持ち込まれて来たときには70年代にはやったグラスファイバーを使った修理がなされていたが、ネックの色も修理のあとを隠すため、ほとんど黒に近く塗装されていた。クラックそのもは接着されていなかったようだ。その後20年程使っていたらしいが、後半はずっとチューニングに悩まされてきたとのこと。ちょうどクラックのあるあたりの塗装が浮き上がりファイバーの一部が剥がれてきていたので爪で擦ってみると、このように簡単に剥がれてしまった。
よく調べてみるとクラックの中は複雑骨折の様子だ。ヘッドの表からみるとナットの側の木が木目に対して直角にひび割れている。ダブルトラスロッドの調整ナット穴が大きいためにこの部分の強度は低く、機能的にはあまり良いデザインとは言えない。オリジナルのヘッドを接着し直しても弦の張力に耐えるだけの強度は期待できなかったので、結局ヘッドを作り直すことになった。
さてこの修理も例によって各部の採寸とテンプレイトの作成から始まるわけだ。このヘッドはウォルナット3本、メイプル2本、計5本の組み合わせでできており、それを一本ずつ作ってから張り合わせる方法でヘッドの角度を作ることにした。
先ず、5本の材料をオリジナルのストライプの幅と同じに仕上げる。
ヘッドの厚みと角度を測って作ったテンプレイトに嵌め釘の穴を開け、メイプル、ウォルナット夫々に固定して整形したあと、嵌め釘を埋め込んで5本のパーツを接着すればヘッド材ができ上がる。
ダブルロッドのためネック側の接着面の整形は非常に難しい。
接着面の角度を決めたらルーターで外側だけを削り取り、あとはノミを使ってこのように整形するのだ。その行程の写真がないので詳細をお見せする事ができないのが残念だが、それはまたの機会に紹介するつもりだ。
ヘッド側の接着面も95% 程仕上げておいて、つぎにヘッド材にトラスロッドの溝をルーターで掘るのだが、ここで気を抜くと、ネック上でストライプの線が合わなくなってしまう。少しずつ削りながらピッタリと合ったら、ずれないように指板側から嵌め釘を打ち込んでおく。そのままの状態で、作っておいたヘッドのテンプレイトを両面テープでしっかりと止める。
取りはずしてみるとトラスロッドの溝と接着面の様子がお分かりいただけると思う。つぎに、いらない部分を切り落とし、ルーターでヘッドの形を仕上げ、マシンヘッドの穴も開けておく。
この時点ではネックの部分は整形せずに両端もラフなままである。
ヘッドが整形できたら今度はトラスロッドナットの穴を掘るのだが、このときももちろんテンプレイトを作って失敗のないようにしなければならない。
作業が進むにつれてどんどん正確さを要求されるわけだ。もしもこの時点で失敗すれば、いままでかけた時間と努力は水の泡と消えてしまう。
さて、ヘッドの準備ができたら接着してネックを整形して行く。真ん中のウォルナットのラインは合っているようだし、メイプルの部分の接着面もピッタリだ。メイプルの色がほんの少し違っているが. . . 。
塗装をしたあとの写真である。
上の写真と比べてみてオリジナルの色と新しい塗装の色との境目がほとんど判らないが、この色合わせの苦労もやった者でなければなかなか理解できるものではない。今回はとてもうまくできたと思う。
塗装をする前の写真。
塗装をすればまるで何事も起こらなかったみたいだ。