Electric Guitar | Gibson Les Paul Special, 1960s
60年代のギブソン レスポール スペシャル。
最初に壊れたときに正当なリペアーをしておけば、時間も費用もずっと節約できたはずだ。素人病方は怪我のもとというよい例である。
主な修理内容
• 新しいヒールの整形、接着
• ピックアップ穴の復元
• 部分塗装による色合わせ
AとB の二つの部品をネジで締めつける場合、ネジの頭が当たる方の部品の穴はネジの径よりも大きくなければならない。ところがAの穴とBの穴とが同じ径だとネジを締めつけたときに両者は密着するどころか、かえってその隙間が広がってしまう。この場合もドリルで穴をあけて、クラックの外側から接着剤を押し込んだまではよかったが、そこに木ネジを入れて締め付けた途端、ネックとヒールがはなれてしまい、かえってダメージを大きくしてしまった。そこで、今度はパテで隙間を埋めて、黒いラッカーでカバーしたものの、しばらくしてから弦の張力で完全に壊れてしまったというケースだ。
このギターが店に持ち込まれてきたときは、なんと9本もの木ネジが刺さっていて痛々しい限りであった。
若いときに初めて買った思い出のギターなので、お金がかかるのは承知の上でなんとかもとに戻してほしい、との持ち主からの依頼を受けて、大修理になったというわけだ。
まずネジを抜き、ネックをはずしてから、ネックポケットをきれいにする。
オリジナルのネックは、フロントピックアップとブリッジピックアップとの間まで埋め込まれているが、その部分は残しておくことにした。必要のないところはさわらないというのが修理の基本である。そうすることによって、ピックガードを取りはずしたときに修理のあとがわからないようになることも大きな利点である。
新しくネックのヒールになるマホガニーのブロックをオリジナルのネックポケットにピッタリと合うようにする。
ピックアップのリード線を通す穴を正確に同じ角度であける。
トラスロッドを抜き取り、指板とネックの接合部分から、斜めにヒールとの接着面を削る。このときにネックの角度はほとんど決まってしまうので、細心の注意が必要だ。
新しくトラスロッドとアンカーを作りヒールの側にもロッドの通る溝とアンカーの入る穴を開ける。
接着時にズレないように細い木の丸棒を埋める。これは最後のフレットを抜いてフレットの溝から穴を開け、接着後にフレットを打ち直せばよい。
接着が終われば注意深くヒールの整形をする。
ピックアップの穴を元通りにルーターで削り取っていくと、なぜ、前の写真にあったようにピックアップのリード線を通す穴を、角度を付けて同じ位置に開けたのかという理由がわかると思う。
更にポールピースのための溝をルーターで削り取り、あとは塗装の準備に入る。
ヒール側の塗装がオリジナルとうまく合えば、ピックアップを取りはずしてみてもどこまでが新しい部分なのか、おそらくわからないはずだ。
さて、このギターは元々イエローのベタ塗りだったものが長い間に目止剤の色が浮き出てきてなかなか面白い効果を出している。だが、それを再現するとなるととても難しく、試行錯誤の末やっとここまでこじつけることができた。
ここにも、時間と行程の流れにさからって修理をすることがいかに難しいか、という問題があったのである。