Semi Hollow Electric Guitar | Gibson ES-335
楽しい筈の旅行が心ない積み荷の作業員のためにだいなしになってしまったケースだ。幸いなことに保険に入っていたため、彼のふところには傷はつかなかったが、もうギターが元に戻ることはない。
ギブソン社に新しいネックの注文を打診したところ、まったく法外な値段と信じられない納期をいいわたされた。
一般的に言ってギターメーカーというのは修理にはあまり興味が’ないようである。製作と修理は根本的にアプローチのしかたが違うからであろう。
そこで、リペアーマンの出番である。
こういったケースでまず最初にするのは複製をする各部の寸法を正確に測ることと、テンプレートを作ることである。
フレットボードは切り離しておく。
素晴らしい日本のノコギリの切れ味!
フレットボードは熱をかけて取りはずす方法もあるが、インレイのセルロイドが熱に負けたり木が縮んだりするのを避けるため、こうして切り離すことにした。
フレットボードが取れたらトラスロッドを取り除きネックを切り落とす。
ネックを大まかに削り出したあと、ネックの角度とセンターを正確に決めてボディーに埋め込まれる部分を整形する。
つぎに、トラスロッドを埋め込むわけだが、このトラスロッドにも色々なタイプがありその説明をするとなるとそれだけで本が一冊書けるほどである。このギターに使われているのは、ギブソン社のデザインによるもっとも簡単で効果的なロッドである。ロープの端を木にくくり着けて片方の端を持った場合、力を入れなければロープの真ん中は少し垂れ下がるが、もし力を入れて引っ張ればロープはピンと張ってまっすぐになる。
それと同じ原理で、トラスロッドがネックの反りを調節できるのだ。つまり、まっすぐなネックに少し真ん中が垂れ下がった状態にロッドを埋め込み、片方をロッドが動かないようにしっかりと止めてしまう。そしてあとの片方を引っ張ってやると、ロッドがまっすぐになるに連れてネックが逆に反っていくというわけだ。だから、溝のカーブの度合いによってトラスロッドの効き方が変わってくるのである。ロッドを埋め込んだら溝の残った部分を木で埋める。
ロッドを引っ張る方法も色々だ。ギブソンの場合はロッドの外に出た部分にネジ山を切っておき、そこに着けたナットが木に食い込んでいかないように大きめのワッシャーを木とナットの間にいれてある。そうするとナットを時計回りにまわしたときロッドが引っ張られ、逆にまわすと緩められたりするというわけだ。
ナット穴は、調整レンチがうまく使えるだけの大きさがいるが、その深さや長さ、角度等をオリジナルのものと同じように開けるのもチョットした技術がいる。
黒く染めた化粧板を、ヘッドに張る前にナットの調整穴に合わせて切り抜いておく。準備が出できたら指板をさきに、それから化粧板を接着する。
前に作っておいたテンプレートを使ってヘッド、ヒール、ネックを整形する。ヒール側とネック側を 95% 仕上げてから、直定規でチェックしながらネックを削っていけば、きれいに整形できる。
ギブソンのロゴの最後の N がなくなっていたので、新しく作らなければならなかったが、その他はヘッドから取り外して再利用することにした。
貝の割れたところを、わからないように接着し直すのは不可能に近い。少なくとも私には出来ない。特にこのインレイのように、ある程度の面積をもったピースの場合は新しく作り直した方が満足の行く結果になる。
そして貝のインレイを新しいヘッドに埋める。
ネックの角度に合わせて楔を作り指板とボディーとの隙間を埋める。
ネックの塗装を仕上げたあと、ネックとボディーを接着してピックアップの穴の中も少しザツな感じで塗装してやれば、ほとんど修理のあとはみられなくなる。
普通は、これくらいのヘッドのダメージなら、少しくらいあとが残ってもヘッドの修理だけを要求する人がほとんどなのだが、この本物のハイダ・インディアンのアートワークがあったため、どうしても完璧になおしたいということで、この大修理となった。
空港でギターをチェックインする時は最悪の事態を覚悟しておいた方がよいと思う。