Electric Guitar | Gibson Les Paul, Vintage
60年、70年代のロック黄金時代を生き抜いてきたギターで、持ち主による涙ぐましい試行錯誤のあとがみられる。チューニングに悩み何度もブリッジの位置を変えてみたり、次々と新しいアイディアを取り入れてみたりしたために、あちこちに穴が開き、削り取られ、満身創痍という状態であった。もう十分に要求に答えてくれた、生まれた時の状態に戻して楽隠居をさせてあげたい、というのがオーナーの要望であった。
マホガニーは木目を合わせるのがとても難しい。しかも透明塗装の場合は色でカバーするのはほとんど不可能に近い。そこで、今回は思い切って大きな化粧板を埋める方法で修理をすることにした。
取り除く穴はボディーの中央付近に集まっていたので、ネックのマホガニー部分を除くトップの約1/3くらいを新しいマホガニーで埋め換えることにした。ボディーはブックマッチで作られているので、削り取る部分は大体左右対称になっている。
木目に沿って線を引いてみると、左右の線は平行ではなくほんの少しネックの付近が狭くなっている。まずアクリル板を使って削り取る部分と同じ形のテンプレートをつくる。ネジ穴に木を埋めたあと、そのテンプレートと同じ形をボディーから3mm程の深さに削り取る。写真を観てもわかるようにネックの部分はそのままである。そして次に、ブックマッチで作ったマホガニーの板にテンプレイトを張り合わせ、ルーターで形を切り出せば化粧板ができあがるわけだ。
使われているマホガニーの木目が、ほぼ直線に近かったのでこの方法が使えたのだが、たとえ同種類の木材でも、同じ木目で同じ風合いをもったものを探すのは至難の業だ。この写真に写っている板は2番目に作ったものだが、同じマホガニーでも少し違う趣きで、ためしにはめ込んでみると、別々にみた時にはわからなかった違いがはっきりとわかったのでやり直しである。
結局何とか妥協できたのは、4番目のものであった。ピックアップの穴は、あらかじめ少し小さめに開けておいてから、ルーターでオリジナルの穴をなぞって行けばきれいに開けることができる。 新しい部分は、おだやかなクサビ型になっているので、接着をするときに所定の位置に置いてから、ネックの方向に押し込んでやるとピッタリと嵌まるので接着線が まったく見えなくなる。そのあとクランプを使ってしっかり締め付けておく。接着をしたあとは速く結果が知りたくてクランプをはずすのが待ち遠しい。
ボディーからはみ出たところをオリジナルの形にあわせて整形をして、ピックアップの穴を開けたあとペーパーで仕上げれば、穴も傷も魔法のように消えてしまった。あとはほかの部分と色を合わせて塗装をすればできあがりだ。
ボディの裏面にくらべると少し新し過ぎるが、きれいなままにしておいてほしいという要望だったので、ビンテージ仕上げにはしなかった。
修理が終わり、持ち主の感激した笑い顔をみたらどんな苦労も報われるというものだ。リペアーをやっていて良かったなーと思う至福のひとときである。