Acoustic Guitar | Martin D-45, 12 Strings Guitar
人気のあるミュージシャンは色々な環境のもとで演奏する機会も多く、彼らのギターは潮風に曝されることもあれば、9000メートルの上空でマイナス50度の貨物室にいたかと思うと、休む間もなく赤道直下の野外でコンサートなどということも頻繁に起こるわけだ。その都度ギターは汗をかいたり乾 いたり、膨らんだり縮んだりと、大変な思いをしているのだ。そんな状態が何年も続けばさすがの名器もこの通りチョットやソットの修理では修復不可能な状態にまでなってしまう。
持ち主からはいくらかかってもいいから完璧に直してほしいとの依頼を受けた。リペアマンにとってこれほどのチャンスはなかなか巡ってはこないものである。ノミを持つ手にも気合いが入るというところだろう。
オリジナルのブリッジは再利用の可能性もあるので一応取って置くことにした。(写真左)
指板は熱をかけて取りはずす。(写真右)
横板のインレイはそのまま残して置くため、一番外側の白いバインディングを取り外すときはそれらを傷つけないように注意しなければならない。最初はルーターである程度まで削り取ったあと、ノミやスクレイパー、ときにはヒートガンなどを使って丁寧にはずしていく。
インレイの外側のバインディングはヒートガンで暖めながら少しずつ外していく。
バインディングをはずしながら貝のインレイをはずし、マスキングテープに順番通りに保存しておく。基本的にはこの貝をもう一度使うためだ。
貝が全部取りはずせたら表面板をきれいにはずす。
ブレイスを整形したあと表面板を横板に接着する。このとき、ネックの角度が変わってしまわないように細心の注意が必要だ。
トップはもちろんマーチンの純正部品で、サウンドホール周りのインレイはすでに埋め込まれている。
表面板の接着ができたらルーターでインレイとバインディングの溝を掘って行く。それぞれのバインディングの幅と深さにピッタリと合う溝を掘るにはかなりの技術と根気が必要だ。
バインディングと貝の入る溝をストラップピンの方からみたところ。
つぎに、その溝にバインディングと貝を埋めていくのだが、全部一度に接着するのではなく、最初は貝の代わりに貝と同じ幅のテフロンをバインディングと一緒に接着する。
その後テフロンを抜き取ると貝のはいる溝ができるというわけだ。そしてその溝に、さきほどとっておいた貝を一つずつ埋めもどしていく。
足らないところには新しい貝を適当な長さに切って繋げていくのだ。
指板の下になる部分に貝や飾り線を入れるときは特に注意が必要である。下の写真をみればわかるように指板が上に重なるため、白黒のラインが少しでも指板のラインに合っていないと非常に不細工になってしまう。
ルーターで溝を切るときにそのでき具合が決まってしまうので神経質にならざるを得ない。これはすでに新しい貝を埋め込んでしまったあとの写真だが、ボディーの外側、曲線の部分に、貝の入っていないところが見えると思う。これが先ほどの説明にあったテフロンを抜き取ったあとの溝で、ここに貝を入れているのが上の写真である。
貝を埋め終わったら小さな隙間を樹脂で埋めてサンディングで仕上げ、塗装に入る。塗装が終われば指板とブリッジ、ピックガードを着けてできあがりだが、今回は指板周りにも新しいバインディングを着け、フレットも交換した。
ブリッジも新しく作り直し、正確なチューニングができるように12弦ギター用のイントネイテッド・サドルを作ったのだが、これについては別の項で説明することにしよう。