Acoustic Guitar | Martin 0-18, 1936
36年のマーチン0-18だ。60年もの長い間に修理を重ね、これ以上は修理をしても意味がないという状態だった。100年経っても信じられないほどいい状態のマーチンもあるのだから、同じ名器でも誰が所有するかによってかなり違ってくるものである。
このギターの場合は、トップの状態の悪さに比べて裏、横板は割れもなくあまり傷んでいなかった。べっ甲模様のバインディングもお良い状態だったし、また、 同じものも手に入らなかったので、バインディングを残し中の表面板だけを取り替えることになった。
まず指板をはずし、ピックガードとブリッジも取りはずす。つぎにバインディングの内側にルーターを走らせてライニングのレベルまで表面板を削り取る。そうしておいてトップを取り除くわけだが、この場合はトップを保存する必要がないのでそれ程神経質になることもない。ただ、クロスブレイスとX-ブレイスだけは残しておいた。
つぎはこの修理の中でもっとも重要な作業である。新しいトップと同じ形のテンプレイトをアクリル板を使って作るのだが、実際には、このテンプレイトはトップを取りはずす前に99%仕上げておいて、トップをきれいに取り除いたあと、細部を調整しながらバインディングの内側にピッタリとはまるように作っていくのである。
テンプレイトを作る前にブレイスを取ってしまうと横板が不安定になってトップの形が変わってくる。例えば、胴の部分が1ミリ程中に入ったり外に出たりしただけでもネックの角度は大きく変わってしまう。ネック角が変わるにつれてアクションやブリッジの高さなども変わって、まったく違ったギターになってしまうわけだ。
今回はマーチンに敬意を表してマーチン純正のトップを取り寄せた。このトップをテンプレイトを使って形を決めブレイスを整形してボディーにはめ込めば元通りになるというわけだ。
マーチンの工場で20年以上も眠っていたというファーストクラスのトップである。
ギターを作るときにはトップを先に接着し、バインディングをあとから接着するのが順序なのだが、それを逆にすると非常に難しくなってしまう。たとえば、白い紙に筆で一つ字を書くのは誰にでも出来る事だが、黒い紙に、白い絵の具で字以外の部分を塗りつぶして筆で書いた字を表現しようとするのが容易ではないのと同じことなのだ。
いつでもこの方法が使えるとは限らないが、今回はトップ以外の全てがとても良い状態だったので満足のいく結果となった。
塗装をしたあと、指板と新しいブリッジを着けフレットを打ち換えると傷つき疲れ果てたギターも新しく生まれ変わって、持ち主の息子さんへと受け継がれることになった。