Acoustic Guitar | Gibson Super 400, 1934
1934年のギブソンスーパー400 だが、40 年ほど前に大修理がされている。ところがこれは修理と呼べるものではなく、楽器に対する思いやりや尊敬は微塵も感じられない。これが店をかまえる人の仕事というのだから驚きだ。泣き寝入りをさせられたミュージシャンはきっと何人もいたことだろう。
古いギブソンの木工技術は非常に高く、バックもトップもそのアーチラインがとてもきれいである。
アーチトップギターを塗り替えるときはそのラインを崩さないように気をつけなければいけない。ところがこのギターにはあちこちに写真に見られるような凸凹があってバインディングまわりもスムースでなくどうすればこのようになるのか理解に苦しむところだ。
ネックをはずし剥離材で塗装を剥がしたあと、サンディングで曲面を整えていくのだが、高いところはそこだけを削ればいいが、凹んだところはそこ以外のすべてをサンディングしなければ正確なラインを出すことができない。
光と影を利用して曲面の歪みをサンディングで直しながら少しずつラインを出していく作業は根気のいる仕事だ。
塗装には素地の研磨、捨て塗り、着色、目止め、下塗り、上塗り、つや出しなど、たくさんの行程があるが、各段階で適切な処置がなされていないといろいろな問題が生じてくる。
その原因がなにであるかは別として、このように塗膜が剥がれてきた場合は止めようがない。解決方法はリフィニッシュしかないわけだ。
ヘッドの再塗装で問題になるのは角のラインをどうやって再現させるかということだ。特にヘッドの一番上の部分は角が取れて丸くなってしまって いるギターが多く、まして、ヘタに修理されているヘッドなどはヘッド全体が曲面になってしまっているものもある。そうなると角のラインを出すためにヘッド 全体をほんのわずか小さくせざるをえない。
だがこのヘッドのようにバインディングが付いていたり、シリアルナンバーが裏に刻印してあるようなヘッドの場合は、サンディングによってシリアルナンバーが消えてしまったり、バインディングの形が変わってしまったりすることにもなる。
そこで、すり減ったり、へこんだりしたところを、樹脂のようなもので充填したり、バインディングを新しく取り替えたりして角のラインを復元していくのである。
このヘッドは一番上のバインディングもすり減っていたため、オリジナルのバインディングをはずし、新しいバインディングに付け替えた。もちろん、裏も、表も、新しい塗装である。
このネックはヒールが真ん中あたりで半分に割れている。何らかの衝撃でネックがボディーから取れたときにヒールが壊れてしまったのかも知れない。
ネックを取りはずして塗装を剥がしてみると、お粗末な修理のあとがよくわかる。センターはズレているし、ヒールの形も変わってしまっている。
ダブテイルとその両側に黒いものが見えるが、これは取れてしまったヒールを接着してから、補強のために埋め込まれたエボニーである。
割れたところを補強しようという考え方そのものは悪くはない。だが補強材との間に隙間があったり、接着剤を間違ったりしては補強にはならない。双方の接着面がピッタリと合ってさえいればそんなものはあまり必要のないはずだ。
ここ迄できる技術と時間があるなら、なぜあともう一歩進んで、もっと正確な修理ができなかったのだろう?
ヒールの下半分は形も変わってしまっていたので新しく木を付け足して整形しなおした。
この年代のオリジナルブリッジにはシンプルな三角形のインレイがはいっているが、これはまったく新しいブリッジに、あとからインレイを加えたものだ。
クラフトマンの気合いがいっぱいに詰まったギターは愛情と敬意をもって修理をすれば必ずそれに応えてくれる。
年老いてまた現役復帰である。